北欧といえば、先進的な社会福祉やシンプルモダンといったデザイン、豊かな森と湖、というのが一般的な印象なのかもしれません。
それはまさしくその通りであり、今や北欧の福祉政策は世界の教科書、家具や建築は世界に誇る北欧の産業の一つと言っても過言ではありません。
しかし、一方でスウェーデンの人々は常に自然を愛し、夏には森へ”帰りたい”といつも心の奥で胸を焦がしている、そんな一面もあるのです。
ダーラナはその心が“帰る”場所の一つなのです。
ダーラナ地方と夏至祭(ミッドサマー)
スウェーデンの中央に位置するダーラナ地方は、湖や森などの美しい自然と、スウェーデンの古い伝統が大切に守られています。ダーラナ地方は、日本でいう県と同じで、ダーラナ地方の中には15の市があります。
人口は約277,000人で、年間を通じてさまざまな伝統行事が行われています。
その中でも、スウェーデンで最も重要な行事の一つである夏至祭は、毎年盛大に行われ、スウェーデン国内外から多くの観光客が訪れています。
本当の夏至祭を見たければダーラナに行くことだ」とスウェーデン人が口をそろえて言うほど、この地域では夏至祭が歌や踊りで盛り上がります。
ダーラナにおける産業
伝統が息づくダーラナは、その文化や技術を生み出すだけでなく、スウェーデンの産業や芸術にも多くの影響を与えてきました。
ダーラナ地方にあるFalun(ファールン)という町は、世界遺産にも指定されている歴史の深いところです。
今でこそ田舎の景色が残る静かなところという印象がありますが、その昔、ダーラナは銅と鉄鋼で栄え、スウェーデンだけではなく、ヨーロッパ全体の産業に多大な影響を与えた重要な土地だったのです。
1600年代には、ファールンの銅山から採掘された銅が世界の銅の3分の2を占めていたとも言われています。そのため、ダーラナ地方は以前までKopparbergs län(コッパルバリース・レーン)、”銅山地方”という名前でした。
しかし現代、よりふさわしい名前に変更しようということから、1997年の1月1日に「ダーラナ地方」という名前に変更したのです。
地名の由来
「ダーラナ」という地域の名前は、「dal(ダール)=谷」という意味からきていて、その谷はダーラナ地方に流れる二つの運河、東運河と西運河によってできたものを表しています。
ダーラナは歴史的な功績が認められ、ファールン銅山と周辺の地域は2001年12月にユネスコの世界遺産に登録されました。これにより、ファールンは、スウェーデンで12番目の世界遺産となっています。
ダーラナでの産業の歴史は、スウェーデンの身近なところで見ることができます。スウェーデン国内でよく見られる銅色の壁に白い窓枠の小屋。典型的な田舎の風景ですが、この壁の銅はかつてダーラナの銅山から作っていたものなのです。
スウェーデンを豊かにした産業が、北欧の原風景となって今に息づいている、やはりダーラナはスウェーデン人の心のふるさとなのです。
ダーラナの画家、カール・ラーション
ダーラナは、数多くの芸術家にも影響を与え、家族をモチーフに明るく牧歌的な絵を描いた世界的に有名な画家、カール・ラーションの愛した地でもあります。
カール・ラーションはスウェーデンのストックホルムに生まれ、のちに妻のカーリン・ラーションと共にダーラナ地方に引っ越しました。そこでカール・ラーションは、妻のカーリンと子供8人に囲まれて、家族の絵やスウェーデンの美しく温かい絵を描きながら幸せな時を過すのです。
彼らは自分達で家や家具に手を加え、独特の感性と芸術的なセンス、高い技術で家を丸ごと”アート”にしてしまいました。それはとてもかわいらしく、美しく、そしてまた暖かい作品です。
ラーション家族が住んでいた家は、ダーラナ地方のSundborn(スンドボーン)という場所に今なお残っており、3月から10月の間は観光客に開放しています。
魅力的で幸せな場所、ダーラナ。物の豊かさだけではなく、昔と変わらない自然と人々との交流によって、多くの人を幸せにする場所でもあるのです。